東京地方裁判所 昭和35年(むのイ)150号 判決 1960年2月17日
被疑者 関口文雄
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する窃盗被疑事件について、昭和三十五年二月十六日東京簡易裁判所裁判官中川臣朗がなした勾留請求却下の裁判に対し、同日東京区検察庁検察官山浦重三から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件勾留請求却下の裁判はこれを取消す。
理由
本件準抗告申立の趣旨ならびに理由は、東京区検察庁検察官山浦重三作成名義の「準抗告申立書」に記載のとおりであるから、ここに、これを引用する。
よつて審究するに、
一、一件記録によれば、本件被疑事実については一応の疎明があるものと認められる。
二、次に右記録によれば被疑者は昭和三十四年初頃川崎市浅田町一の八八の実家を無断で飛び出し、以後川崎市付近の簡易旅館を転々と泊り歩いていたものであることが認められるから、被疑者の住居は現在不定であると言わなければならない。
三、更に逃亡の虞れがあるか否かについて検討すると、右の如く被疑者が約一年前より無断家出している事情に加えて、
(1) 被疑者には現在定職がなく、かつ妻子等の家族のない自由な身の上であること
(2) 被疑者は過去に窃盗の所為をなした前歴を有し、かつ、本件犯行の直前にもこれと同種行為に及んでいることが窺われるし、また本件犯行の態様は極めて巧妙計画的であつて、かような点よりすれば、被疑者は常習的に同種犯行を繰り返しているのではないかとの疑念を容れる余地もあること
(3) 被疑者については確実な身許引受人も存しないこと
等の諸点よりすれば、今被疑者を釈放するときは、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由も存するものといわなければならない。
以上説示したところによれば、本件勾留請求については被疑者を勾留する理由があることは明らかであり、また、本件事犯の性質にかんがみれば、勾留の必要性も存するというべきであるから、勾留の必要性がないとして、これを却下した原裁判は失当であり、本件申立は理由があるから、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条に則り原裁判を取消すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判官 柳瀬隆次 古崎慶長 小林充)
(準抗告申立の趣旨及び理由略)
(注) 被疑事実の要旨
被疑者は昭和三十五年二月一三日午後一時二十五分ごろ東京都港区芝新橋二ノ一四番地新橋場外馬券売場窓口附近において馬券購入中の張ヶ谷正内のオーバー右ポケツト内より同人所有にかかる紙片一枚をすり取つて窃取したものである。